「年齢相応」の考えがある限り、氷河期世代が報われることはもう無い

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言っていることには同意できる部分も多いが、若いからか「もう氷河期世代には逆転のチャンスがほとんどない」という問題について、あまり理解が無いようにも見えた。

氷河期世代とは、1993年から2005年に就職した人たちを指す言葉だ。

新卒での就職タイミングが人それぞれ異なるため、現在35~45歳前後の人が当てはまる。留年や浪人を考えれば、50歳でも就職氷河期に含まれる人もいるかもしれない。もう十分に「大人」であり「経験豊富」な年齢の人たちだ。

日本では「年齢相応」という考え方が根強い。「20歳を超えたらこれくらいの分別は~」「30歳にもなって常識が~」など、年齢と合わせて苦言を受けた経験のある人も多いだろう。「いい年して」もその一種。外国のことはよく知らないが、少なくとも日本では「年齢に応じて、能力の向上や精神的な強さを身に着けるのが当たり前」という考えが一般化されている。

これは就職現場にも当てはまる。

日本企業では「〇〇歳なら、このくらいの経験が欲しい」といった見方で、候補者を見ることが多い。例えば、私のいるIT業界なら「20代後半までなら、3年以上の開発経験があればOK」とか、「30代ならチームリーダー経験が欲しい」とか「40代ならプロマネ経験が欲しい」とかになる。もちろん、これは企業ごとに考え方も求める人材も異なるため、一律というわけではない。ただ、年齢が上がれば上がるほど、自己学習ではどうにもならない経験を求められるようになる傾向が強いのは大体共通している。

人によっては、これは当たり前のことに見えるかもしれない。高校や大学を卒業し、新卒で企業に就職し、数年働いて部下を持ち、リーダーとして経験を積み、より大きなプロジェクトに所属するようになり、プロジェクトを率いるマネージャーになる。ごくごく自然な日本企業的成長ストーリーと言えるだろう。しかし、これが当たり前でない人が今は沢山いる。

1986年に施行された労働者派遣法により、限定的だが、派遣社員が登場した。1996年に対象業務が拡大され、1999年には対象業務が原則自由化された。さらに、2000年には紹介予定派遣が解禁され、その後も派遣期間の延長や、派遣可能業務の拡大が続いていった。

好景気であれば、派遣社員もそんなに悪いものではなかったのかもしれない。会社に縛られずに働きたい人が、自ら選択する就業形態として選ぶというケースも実際少なくなかった。しかし、1991年のバブル崩壊以降、日本は失われた20年と呼ばれる、長期間の景気低迷に陥ってしまった。

氷河期世代と呼ばれる1993~2005年に就職した人たちは、その被害をまともに受けてしまった。バブル崩壊で業績が悪化した企業が、人件費抑制のために派遣社員を利用し、行政もそれを後押しするように次々に派遣の規制を緩めていった。結果、今では労働者の37.3%を非正規が占めるようになっている。

非正規労働者の厳しい点は、給与の低さや福利厚生の貧弱さもあるが、それ以上に成長機会が少ない点にある。ある程度の期間働いたことがある人なら知っていると思うが、非正規労働者に回ってくる仕事というのは、ルーチンワークと雑務が主になる。例外的に、社員ができない仕事を押し付けられるというケースもあるが、社員のように教育機会が無かったり、協力が得にくい立場だったりするので、業務の遂行自体が困難なケースが多くなる。

そして、さらに厳しいのは経験した職務内容に関わらず、就業形態が非正規雇用というだけで、社会的評価が低くなるという点だ。

一般的に、人事が職務経歴書を見る場合、非正規雇用での経験はおまけ程度の扱いとしてしか見ない。コネ入社の正社員(役職者)で仕事はほとんどせずに寝ているだけの人と、非正規雇用で実質的な現場責任者を比べた場合、書類上の評価が高いのは圧倒的に前者だ。

ということで、すでに40歳前後の年齢となり「年齢相応」で求められる経験がかなり高度なものとなっており、且つ就職難で非正規雇用を選ばざるを得なかった人は、雇われという立場で報われるのはかなり厳しい状況にある。かと言って、低収入で蓄えを作るのが難しく、コネも作りにくいのが非正規雇用という立場だ。起業して上手くいく可能性も低いだろう。

普通、こういった記事では、最後に救済案や「こうすれば上手く行く」みたいな話を書くのがセオリーなのだが、残念ながら、私にはそのアイデアは無い。強いて言えば「若い人が敬遠する仕事であれば、需要はある」くらいだ。

「年齢相応」の考えは雇う側だけでなく、雇われる側にもある。雇われる側が「年齢相応」の待遇を望まず、新卒レベルの待遇を受け入れるのであれば、人によってはチャンスもあるのかもしれない。それがチャンスと呼べるのか疑問ではあるが。